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最高裁判所第二小法廷 昭和60年(オ)522号 判決 1988年10月21日

上告人

菱田淳三

右訴訟代理人弁護士

山口伸六

平山明彦

被上告人

玉村勝子

被上告人

玉村大藏

被上告人

玉村啓次郎

被上告人

川部多加子

被上告人

室井順子

主文

原判決中、被上告人らの金員支払請求に関する部分を破棄し、右部分につき第一審判決を取り消す。

被上告人らの前項の部分の請求に係る訴えを却下する。

上告人のその余の上告を棄却する。

第一審判決主文第二項を「右株式譲渡の承認があったときは、被告は原告らに対し、それぞれ右各株式数に相当する株券につき、被告が訴外兼松江商株式会社に対して有する返還請求権を譲渡し、かつ、同社に対して、以後右株券を原告らのために占有せよと通知せよ。」と更正する。

訴訟の総費用はこれを三分し、その二を上告人の、その余を被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人山口伸六、同平山明彦の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきよう、独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。

ところで、職権をもって調査するに、原審は、その適法に確定した事実関係に基づき、(1) 上告人は被上告人らのために被上告人各自が贈与を受けた訴外玉村株式会社(以下「訴外会社」という。)の株式について訴外会社の取締役会に対する株式譲渡承認申請手続をせよとの請求、及び(2) 上告人は被上告人らに対し右承認があったときは右株式に相当する株券につき指図による占有移転をせよとの請求をいずれも認容すべきものとした外、(3) 前記(1)、(2)の株式譲渡承認申請手続及び占有移転の強制的実現(執行)が不能となったときは、上告人は被上告人らに対し右不能に係る株式について一株あたり金六〇〇円の割合による金員を支払えとの請求を認容すべきものと判断して、前記各請求をいずれも認容した第一審判決に対する上告人の控訴を棄却した。

しかしながら、原審の右判断のうち、右(3)の代償請求を認容すべきとした部分は是認することができない。けだし、執行不能を条件とする代償請求は、本来の給付請求の執行不能を条件とする将来の給付請求であるので、あらかじめ請求する必要がある場合に限り提起できる(民訴法二二六条)と解すべきところ、前記株式譲渡承認申請手続請求は、意思表示をすべきことを求めるものであるから、これを命ずる主文の強制執行は、民事執行法第一七三条一項本文により判決の確定をもって完了し、前記指図による占有移転請求も、意思表示をすべきことを求めるものであるが、その意思表示が訴外会社の取締役会の承認という被上告人らの証明すべき事実の到来に係る場合であるから、これを命ずる判決主文の強制執行は同項ただし書により被上告人らが右承認の事実を証明する文書を提出して執行文の付与を受けたときに完了するものである。しかも右訴外会社取締役会の承認を得られない場合は代償請求の条件たる執行不能に該当しないから、原審が認容すべきものとした代償請求は、いずれも条件たる本来の給付請求の主文の強制執行自体が不能となることはあり得ず条件成就の可能性が存在しないことになるので、あらかじめ請求する必要が認められず、将来の給付の訴えとしての訴訟要件を欠く不適法なものであるといわざるを得ない。したがって、右訴えに係る請求を認容すべきものとした原審の判断には訴訟要件に関する法令の解釈適用を誤った結果、将来の給付の訴えとして訴訟要件を欠く請求についてこれを認めるべきだとした違法があるといわざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであり、原判決中右代償請求を認容した部分は破棄を免れず、第一審判決中右請求に関する部分を取り消し、右請求に係る訴えを却下すべきである。

なお、第一審判決主文第二項は「右株式譲渡の承認があったときは、被告は原告に対し、それぞれ右各株式数に相当する株券につき、被告が訴外兼松江商株式会社に対して有する返還請求権を譲渡し、かつ、同社に対して、以後右株券を原告らのために占有せよと通知せよ。」とすべきところを誤記したことが、その判決理由に照らし明らかであるから、民訴法一九四条により職権をもって右のとおり更正する。

よって、その余の論旨については判断する必要がないので、これを省略し、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、八九条、九二条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官島谷六郎 裁判官牧圭次 裁判官藤島昭 裁判官香川保一 裁判官奥野久之)

上告代理人山口伸六、同平山明彦の上告理由

〔主たる請求〕

第一点 原判決は、株式譲渡制限の規定の解釈を誤っている。

一 原判決は

「本件株式の譲渡の意思表示をした昭和四七年一二月一八日当時、いまだ株式譲渡制限の規定が訴外会社の定款上存しなかったのであるけれども、上告人は、現在に至るも本件株式の交付をしていないものである以上、上告人のなした本件株式の譲渡の効力はいまだに発生していないのであるから、定款変更による株式譲渡制限の規定は、上告人が亡平次郎に対してなした昭和四七年十二月十八日の本件株式の譲渡についても、その効力が及ぶものというべきである。」と判断している。

二 本件においては、昭和四七年一二月一八日に、本件株式の譲渡の意思表示がなされ、昭和四八年四月六日訴外玉村株式会社は定款変更による株式の譲渡制限に関する規定を設定した。

三 ところで、定款変更により譲渡制限の規定を新設したとき、すでに株式譲渡の意思表示がなされており、右意思表示に基づき株券の交付義務が生じている場合には、株式の譲受人は譲渡人に対し前記意思表示に基く履行遅滞による損害賠償請求をなしうるとしても、定款変更による譲渡制限の規定は、譲渡人譲受人間ではその効力を及ぼさないと解せられる。

けだし、定款は団体固有の自治的法規であって、契約の解釈の原理によって定款に遡及効を附与するなどのことは考えられないからである。

上告人に対し、本件株式の譲渡制限の規定を適用し、譲渡承認手続を強制することは許されないし、法的根拠もない。

原審は、譲渡制限に関する規定の適用解釈を誤っている。

〔予備的請求について〕<省略>

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